仮想通貨の税率・税額④仮想通貨と株式投資の税金の違い

目次

はじめに

仮想通貨

「仮想通貨の税金は株式投資より高いって聞いたけど、本当?」「なぜ同じ投資なのに税制が違うの?」これらは仮想通貨投資家から最もよく聞かれる質問の一つです。

確かに、仮想通貨と株式投資では税制が根本的に異なり、投資戦略にも大きな影響を与えます。特に年収が高い方ほど、この違いによる税負担の差は顕著に現れます。当事務所でも「同じ投資なのになぜこんなに税金が違うのか」という相談を数多くいただきます。

税制の違いを理解せずに投資を続けると、思わぬ税負担に驚いたり、効率的な投資機会を逃したりする可能性があります。この記事では、仮想通貨と株式投資の税制の違いを詳しく比較し、それぞれの特徴とメリット・デメリットを解説します。

課税方式の根本的違い

仮想通貨:総合課税という仕組み

仮想通貨の利益は「雑所得」として分類され、「総合課税」という方式で税金が計算されます。これは他の所得と合算して税率を決定する仕組みで、累進税率(5%~45%)に住民税10%が加わります。

計算方法は「(給与所得 + 仮想通貨利益 + その他所得 – 各種控除) × 税率 = 税額」となり、他の所得の影響を大きく受けます。つまり、給与が多い人ほど仮想通貨の利益にも高い税率が適用されることになります。

株式投資:申告分離課税という仕組み

株式投資の利益は「譲渡所得」として分類され、「申告分離課税」という方式で税金が計算されます。これは他の所得とは分離して計算する仕組みで、一律20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)の税率が適用されます。

計算方法は単純で「株式利益 × 20.315% = 税額」となり、給与所得等とは別途計算されます。年収に関係なく、常に同じ税率が適用されるため、税負担の予測が立てやすいという特徴があります。

課税方式による投資家への影響

総合課税の特徴として、低所得時は税率が低くなるメリットがありますが、高所得時は税率が非常に高くなるデメリットがあります。また、他の所得によって税負担が変動するため、予測が困難です。

分離課税の特徴として、税率が一定で予測しやすいメリットがありますが、低所得でも一律20.315%というデメリットがあります。ただし、他の所得に関係なく税率が固定されているため、シンプルで理解しやすい制度です。

税率の詳細比較

所得水準別の税率比較

課税所得195万円以下の低所得層では、仮想通貨は5% + 10% = 15%、株式投資は20.315%となり、仮想通貨の方が5.315%有利になります。

課税所得330万円~695万円の中所得層では、仮想通貨は20% + 10% = 30%、株式投資は20.315%となり、株式投資の方が9.685%有利になります。

課税所得900万円超の高所得層では、仮想通貨は33%以上 + 10% = 43%以上、株式投資は20.315%となり、株式投資の方が22.685%以上有利になります。

具体的な税負担比較

利益100万円の場合を例に見てみましょう。年収300万円では仮想通貨約15万円、株式約20万円で仮想通貨が5万円有利。年収500万円では仮想通貨約30万円、株式約20万円で株式が10万円有利。年収800万円では仮想通貨約30万円、株式約20万円で株式が10万円有利。年収1200万円では仮想通貨約43万円、株式約20万円で株式が23万円有利。年収2000万円では仮想通貨約50万円、株式約20万円で株式が30万円有利となります。

損益分岐点の重要性

税負担が同等になる所得水準は、仮想通貨税率が20.315%となる課税所得約330万円、年収換算で約450万円程度です。この水準を境に有利・不利が逆転するため、自分の年収水準を把握しておくことが重要です。

損失の繰越制度の大きな違い

仮想通貨

株式投資の優遇された損失繰越

株式投資では3年間の繰越控除が認められており、上場株式等の譲渡損失が対象となります。継続的な確定申告が適用条件で、翌年以降の利益から控除できます。

具体例として、1年目に株式損失300万円が発生した場合、2年目に株式利益100万円があっても税額0円(損失200万円繰越)、3年目に株式利益100万円があっても税額0円(損失100万円繰越)、4年目に株式利益100万円があっても税額0円(損失消化完了)、5年目の株式利益100万円でようやく税額約20万円となります。

仮想通貨の厳しい損失処理

仮想通貨では損失の繰越は一切認められておらず、その年の雑所得内でのみ通算が可能です。他の雑所得との損益通算のみが認められ、年内で損益が確定します。

具体例として、1年目に仮想通貨損失300万円が発生した場合、この損失は切り捨てられて繰越できません。2年目に仮想通貨利益100万円があると、前年損失は考慮されずに税額約30万円が発生します。

損失処理の投資戦略への影響

株式投資では大きな損失も将来利益で回収可能なため、長期的な視点でのリスク取りが可能です。一方、仮想通貨では損失はその年で確定し回収不可能なため、より慎重なリスク管理が必要になります。

必要経費の認められる範囲

株式投資の限定的な経費

株式投資で認められる経費は売買手数料、借入金利子(信用取引)、新聞代・雑誌代(投資関連)、セミナー参加費(投資関連)、通信費(按分)などに限定されています。

重要な注意点として、特定口座(源泉徴収あり)では経費控除ができず、一般口座や特定口座(源泉徴収なし)でのみ経費控除が可能です。

仮想通貨の比較的広範囲な経費

仮想通貨で認められる経費は、取引手数料、送金手数料、パソコン購入費(按分)、インターネット通信費(按分)、電気代(マイニングの場合)、書籍・雑誌代、セミナー・研修費、税理士費用など比較的広範囲です。

家事関連費の場合は合理的な按分が必要で、使用時間、使用頻度、専用度合いで按分率を決定します。

経費効果の実際の比較

年間経費20万円の節税効果を比較すると、税率30%時で約6万円の節税効果は同じですが、株式投資では特定口座で経費控除が困難な一方、仮想通貨では雑所得のため経費控除がしやすいという実務上の違いがあります。

NISA適用の可否

仮想通貨

株式投資とNISA制度

つみたてNISAでは年間投資枠40万円、投資期間20年間で、金融庁指定の投資信託・ETFが対象となり、運用益が非課税となります。

一般NISAでは年間投資枠120万円、投資期間5年間で、株式、投資信託、ETF等が対象となり、売却益・配当金が非課税となります。

新しいNISA(2024年開始)では、成長投資枠年240万円、つみたて投資枠年120万円、投資期間が恒久化され、生涯投資枠1,800万円という大幅な拡充が行われました。

仮想通貨のNISA適用状況

現状では、つみたてNISA、一般NISA、新しいNISAすべてで仮想通貨は適用不可となっています。これは仮想通貨がNISA対象商品に含まれていないためです。

将来の可能性として、現在は適用の予定はありませんが、仮想通貨ETFのNISA適用可能性が議論されています。ただし、価格変動リスクや規制の整備といった課題があります。

NISA効果の具体的比較

年間120万円投資、年5%運用、10年間の場合を比較すると、株式投資(NISA活用)では運用益約55万円に対して税負担0円で手取り運用益55万円となります。

仮想通貨投資では運用益約55万円に対して税負担約16万円(税率30%時)で手取り運用益39万円となり、NISAとの差は16万円になります。

投資戦略への影響

短期投資戦略における違い

デイトレード・スイングトレードを考える場合、株式投資では税率一律20.315%、損失繰越3年間可能、特定口座で源泉徴収により簡便という特徴があり、短期売買に向いています。

仮想通貨では累進税率(最大55%)、損失繰越不可、申告必須という特徴があり、特に高所得者の短期売買は非常に不利になります。

長期投資戦略における違い

バイ・アンド・ホールド戦略を考える場合、株式投資ではNISA活用により長期間の非課税運用が可能で、配当金による継続的な収入があり、損失繰越でリスク管理がしやすく、長期投資に非常に適しています。

仮想通貨では売却まで課税されない長期保有のメリットはありますが、NISA適用がなく税制優遇がない、高いボラティリティというリスクがあり、長期投資も可能ですが税制面で不利です。

リスク管理戦略の違い

損切りの考え方も大きく異なります。株式投資では損失を確定させても3年間繰越可能で、将来の利益で損失を回収できるため、積極的な損切りが可能です。

仮想通貨では損失確定はその年で終了し、翌年の利益には適用されないため、より慎重な損切り判断が必要になります。

海外との比較

アメリカの税制

アメリカでは仮想通貨について、1年以内保有は通常所得税率(最大37%)、1年超保有はキャピタルゲイン税率(最大28%)で、損失繰越が可能です。

株式投資についても、1年以内保有は通常所得税率(最大37%)、1年超保有はキャピタルゲイン税率(最大20%)で、損失繰越が可能です。

イギリスの税制

イギリスでは仮想通貨はキャピタルゲイン税10%または20%、年間免税枠6,000ポンド、損失繰越が可能です。

株式投資もキャピタルゲイン税10%または20%、年間免税枠6,000ポンド、ISA制度により年2万ポンドまで非課税となっています。

日本の特異性

日本では仮想通貨を雑所得として総合課税とし、最高税率が諸外国より高く、損失繰越制度がなく、NISA等の優遇制度適用もないという、仮想通貨に対して厳しい税制となっています。

将来の税制改正の可能性

分離課税化の議論

分離課税化には税率の明確化・簡素化、高所得者の税負担軽減、投資環境の改善というメリットがありますが、税収への影響、公平性の問題、金融商品としての位置づけという課題があります。

損失繰越制度導入の可能性

投資家保護の観点から検討の価値があり、株式投資との平等性確保やリスク投資促進効果が期待されています。

NISA適用の可能性

価格変動リスクの大きさ、規制・監督体制の整備、投資家保護措置の確立といった課題への対応が必要です。

投資選択への提言

所得水準別の推奨戦略

年収400万円以下では、仮想通貨は税率面で有利なため少額から開始し、株式投資はNISA活用で長期投資を行い、両方を組み合わせた分散投資がおすすめです。

年収500万円~800万円では、仮想通貨は税率上昇に注意して利益確定タイミングが重要になり、株式投資をメイン投資として活用し、株式中心で仮想通貨は補完的に位置づけることをおすすめします。

年収1000万円以上では、仮想通貨は高税率のため慎重に検討し、株式投資は税制面で圧倒的に有利なため、株式投資を中心に仮想通貨は少額での参加をおすすめします。

投資戦略別の推奨

短期投資志向の場合、株式投資は特定口座で簡便かつ税率固定のため推奨で、仮想通貨は高税率リスクと申告負担があるため注意が必要です。

長期投資志向の場合、株式投資はNISA活用と配当収入のため推奨で、仮想通貨は売却まで課税なしで高成長期待があるため選択肢として可能です。

まとめ

仮想通貨と株式投資の税制には大きな違いがあります。

課税方式では、仮想通貨は総合課税(累進税率)、株式投資は分離課税(一律20.315%)です。損失処理では、仮想通貨は繰越不可で雑所得内通算のみ、株式投資は3年間繰越可能です。

必要経費では、仮想通貨は比較的広範囲で認められ、株式投資は限定的(特定口座では困難)です。NISA適用では、仮想通貨は適用不可、株式投資は適用可で大きな節税効果があります。

投資戦略への影響として、低所得者は仮想通貨が税制面で有利、高所得者は株式投資が税制面で圧倒的に有利、長期投資では株式投資の税制優遇が大きいという特徴があります。

税制の違いを理解した上で、自分の所得水準や投資戦略に応じて最適な投資配分を決定することが重要です。将来的な税制改正の動向にも注目しながら、柔軟な投資戦略を構築することをおすすめします。投資は税制面だけでなく、リスク許容度や投資目的も考慮して総合的に判断することが大切です。

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