青色申告と白色申告の違いと選び方

個人事業主が最初に考えること

個人事業主や中小企業経営者が事業を行う上で避けて通れないのが確定申告です。その中でも「青色申告」と「白色申告」という2つの申告方法があり、どちらを選択するかによって節税効果やメリット・デメリットが大きく異なります。本コラムでは、両者の違いや選ぶ際のポイントについて詳しく解説します。

青色申告と白色申告の基本的な違い

まず、青色申告と白色申告の基本的な違いについて確認しておきましょう。

青色申告は、一定水準の帳簿を備え付け、日々の取引を正確に記録している事業者が選択できる申告方法です。国が推進している申告方法であり、複式簿記による記帳が原則とされています。白色申告は、青色申告の承認を受けていない事業者が行う申告方法で、簡易な記帳で済むのが特徴です。

青色申告のメリット

1. 最大65万円の特別控除

青色申告の最大のメリットは「青色申告特別控除」です。条件を満たすことで、最大65万円(電子申告利用の場合)の所得控除を受けることができます。この控除は、単純計算で所得税・住民税合わせて約20万円の節税効果があるといわれています。

青色申告特別控除には以下の2種類があります:

  • 65万円控除:複式簿記で記帳し、貸借対照表・損益計算書を含む確定申告書を電子で提出
  • 55万円控除:複式簿記で記帳し、貸借対照表・損益計算書を含む確定申告書を紙で提出
  • 10万円控除:簡易帳簿で記帳し、損益計算書を添付して申告

2. 赤字の繰越控除

青色申告では、事業で生じた赤字(損失)を最長3年間繰り越すことができます。つまり、今年赤字が出ても、翌年以降の黒字と相殺することで節税効果を得られます。

【具体例】 田中さんは個人事業主として飲食店を経営しています。過去3年間の事業所得は以下の通りでした。

  • 2022年:▲200万円(赤字)
  • 2023年:100万円(黒字)
  • 2024年:150万円(黒字)
  • 2025年:200万円(黒字)

白色申告の場合、各年の所得に対してそれぞれ課税されます。2022年の赤字は翌年以降に繰り越せないため、2023年は100万円、2024年は150万円、2025年は200万円に対して税金がかかります。

一方、青色申告の場合:

  • 2022年の赤字200万円を翌年以降に繰り越せます
  • 2023年:所得100万円-繰越赤字100万円=課税所得0円(残り繰越赤字100万円)
  • 2024年:所得150万円-繰越赤字100万円=課税所得50万円(繰越赤字は使い切り)
  • 2025年:所得200万円(この年は通常通り課税)

このように青色申告では、3年間で課税所得を150万円減らすことができ、大きな節税効果が得られます。特に、開業初期の赤字を将来の黒字と相殺できる点は、新規事業者にとって大きなメリットです。

3. 家族への給与の必要経費算入

事業に従事する家族への給与(「青色事業専従者給与」)を、一定の条件のもとで必要経費として計上できます。別コラムで解説しておりますので詳しい説明はここでは割愛させて頂きます。白色申告では、配偶者や親族に支払う給与は「事業専従者控除」という形でしか経費にできず、上限額も設けられています。配偶者は最高 86 万円、15 歳以上のその他の親族は最高 50 万円を必要経費として差し引くことができます。

4. 各種引当金や準備金の計上

青色申告では、貸倒引当金や退職給与引当金などの各種引当金、特別修繕準備金などを計上することができます。これにより将来の支出に備えながら、現在の課税所得を抑える効果があります。

5. 少額減価償却資産の特例

取得価額が30万円未満の減価償却資産を、一括して必要経費に算入できる特例があります。これにより設備投資の際の節税効果が高まります。

白色申告のメリット

1. 記帳・申告の手間が少ない

白色申告の最大のメリットは、記帳や申告の手間が青色申告に比べて少ないことです。複式簿記の知識がなくても、収入と経費を記録する簡易な帳簿があれば対応できます。

2. 事前の申請が不要

青色申告は事前に税務署への申請が必要ですが、白色申告はそのような手続きが不要です。開業したばかりで申請が間に合わなかった場合でも、白色申告なら問題ありません。

どちらを選ぶべきか?事業者タイプ別アドバイス

副業・兼業で年間所得が少ない場合

年間の事業所得が65万円以下の場合、青色申告の特別控除を最大限活用しても課税所得はゼロになるため、青色申告のメリットは薄れます。記帳の手間を考えると白色申告が現実的かもしれません。ただし、将来的に事業規模の拡大を見据えているなら、最初から青色申告で習慣づけることも検討すべきでしょう。

本業として事業を営んでいる場合

本業として事業を営んでいる場合、所得が大きくなる可能性が高いため、青色申告のメリットを享受できる可能性が高まります。特に、所得が65万円を超える見込みがあるなら、青色申告を選択するのが賢明です。

家族従業員がいる場合

配偶者や子どもなど家族が事業に関わっている場合、青色申告を選択することで家族への給与を経費として計上できるため、家族全体での税負担を軽減できる可能性があります。

変動の大きい業種の場合

収益が年によって大きく変動する業種(例:農業、不動産業など)では、青色申告の赤字繰越制度が大きなメリットとなります。好調な年の利益を、不調だった過去の赤字で相殺することで税負担を平準化できます。

青色申告を選ぶ際の注意点

1. 期限内の申請が必要

青色申告を行うためには、原則として「その年の3月15日まで」または「開業から2ヶ月以内」に「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。期限を過ぎると、その年は白色申告となります。

2. 記帳の手間と知識が必要

青色申告では複式簿記による記帳が原則とされており、一定の会計知識が必要です。また、日々の取引を適切に記録する手間もあります。最近では会計ソフトやクラウド会計サービスの普及により負担は軽減されていますが、それでも白色申告に比べれば手間がかかります。

3. 帳簿の保存義務

青色申告では、帳簿や請求書・領収書などの証憑書類を7年間保存する義務があります(白色申告は5年間)。保管スペースの確保や管理体制の整備が必要です。

白色申告でも必要な記帳義務

2014年から白色申告者にも記帳・帳簿等の保存制度が義務付けられました。売上や仕入れ、経費などを記録した帳簿と、それを裏付ける書類を保存する必要があります。義務を怠ると、最悪の場合、青色申告の場合と同様に「推計課税」や「無申告加算税」などのペナルティを受ける可能性もあります。

電子申告(e-Tax)の活用

近年、確定申告の電子化が進み、e-Taxを利用することで自宅からインターネット経由で申告できるようになりました。特に青色申告の場合、e-Taxを利用することで65万円の特別控除を受けられます(書面提出の場合は55万円)。また、添付書類の提出省略などの手続き簡素化のメリットもあります。

まとめ:あなたにとってのベストな選択は?

青色申告と白色申告、どちらが良いかは一概には言えません。事業規模、将来計画、会計知識、記帳にかけられる時間などを総合的に判断する必要があります。

青色申告がおすすめの方

  • 年間の事業所得が65万円を超える見込みがある
  • 会計ソフトを活用して記帳する習慣がある、または身につける意欲がある
  • 家族従業員がいる
  • 事業の黒字・赤字の波が大きい
  • 将来的に事業拡大を目指している

白色申告がおすすめの方

  • 副業で年間所得が少ない
  • 記帳や経理に時間をかけたくない
  • 会計知識に自信がない
  • 開業したばかりで青色申告の申請が間に合わなかった

いずれにせよ、税金は事業を続けていく上で避けて通れない問題です。自分の状況に合った申告方法を選び、適切に対応することで、無用なトラブルを避け、節税効果を最大化することができます。不安がある場合は、税理士などの専門家に相談することも検討してみてください。

税制は毎年のように変更される可能性があるため、常に最新情報をチェックすることも大切です。自分の事業と向き合い、長期的な視点で最適な選択をしていきましょう。

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